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人生朝露

人生朝露

『バットマン ビギンズ』とユングと荘子。

荘子です。
荘子です。

前回の続き。

参照:『ダークナイト』と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5131/

『ダークナイト』と荘子 その2。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5132/

『ダークナイト』と荘子 その3。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5133/

『バットマン ビギンズ(Batman Begins 2005)』
クリストファー・ ノーラン(Christopher Nolan 1970~)と荘子の関係を追っております。今回は三部作の一作目『バットマン ビギンズ(Batman Begins 2005)』について。ノーランの「バットマン」の三部作は、いきなりチベットを思わせるヒマラヤの山岳地帯の寺院を舞台に、なぜか忍者が出てきて、カンフーやったり、柔術やったりで、東洋人として、えもいわれぬ胡散臭さを感じました。カンフーと柔術を一緒くたにしたのはマトリックス以来(笑)。

参照:身体技法と老荘思想 ~技と道~。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5127/

『バットマン・ビギンズ』は、セリフの中ではっきりあるように、ユングがベースです。

scarecrow。
Rachel Dawes: What's "scarecrow"?(スケアクロウって何?)
Dr. Jonathan Crane: Patients suffering delusional episodes often focus their paranoia on an external tormentor. Usually one conforming to Jungian archetypes. In this case, a scarecrow.(幻覚に悩まされる患者は、よく彼らの外面のスクリーンに妄想の像を焼き付ける。一般的に確立されたユング心理学の「元型(archetype)」の中にもある、この患者の場合は「案山子(かかし・scarecrow)」だ。)

参照:Batman Begins, "It's why I do what I do."
http://www.youtube.com/watch?v=cmY-msdUqPA&feature=related

ユング心理学の「元型(archetype)」の“scarecrow(かかし)”。
実はもともと、スケアクロウというキャラクターは、『バットマン』の原作コミック初期段階からの古株で、元心理学者という設定を見れば分かるとおり、ノーランが手がける以前からユングです。

参照:Wikipedia 元型
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%83%E5%9E%8B

Wikipedia スケアクロウ (バットマン)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%A6_(%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9E%E3%83%B3)

案山子のカブ 『ハウルの動く城(2004)』。 ドロシーとかかし。
元型としての「かかし」の分かりやすい例で言うと、「オズの魔法使い」の中のかかしとか。『ハウルの動く城』の中に登場する「案山子のカブ」なんかがその典型です。

『千の顔を持つ英雄(The Hero with a Thousand Faces)』ジョセフ・キャンベル著。
おそらく、今回の三部作を製作するにあたって、ジョセフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』が叩き台にあっただろうと思われます。ユング心理学をベースに世界の様々な神話のモチーフから、世界各地の英雄物語の共通の形を探るもので、『スター・ウォーズ』のネタ本として有名です。今回の『バットマン』も、ストーリーの骨子の部分に『スター・ウォーズ』との類似性が多く見られました。

ラーズ・アル・グールとブルース・ウェイン。
配役を見ても、ゴードン警部補役のゲーリー・オールドマンは、『レオン』で、リーアム・ニーソンの起用は「ファントム・メナス」のクワイ・ガン・ジンからの連想でしょう。影武者が出るところあたりは、どう見ても『スター・ウォーズ』。また二作目の『ダークナイト』で「愛する女性の死」をきっかけに暗黒面に墜ちるトゥーフェイスは、ダースベイダーの誕生と軌を一にします。

参照:ジョージ・ルーカスと東洋思想。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5097/

『服部半蔵 影の軍団(1980)』
ちなみに、「影の同盟(The League of Shadows)」なる忍者の軍団は、ありゃ、千葉真一の『服部半蔵 影の軍団(1980)』でしょうね(笑)。

参照:Batman Begins - The Will To Act (HD)
http://www.youtube.com/watch?v=cqHp9vLCYzM

Hattori Hanzo: Kage no Gundan 1980 [retro-trailer]
http://www.youtube.com/watch?v=B8DgShRecLM
・・・サムライもどきのジェダイの騎士と、ニンジャもどきの影の同盟を演じたリーアム・ニーソン。次は、虚無僧にでもなりそうな勢いです。

ちなみに、ちなみに、しつこいくらい『ダークナイト』の銀行強盗のシーンと『荘子』を対照しておりますが、
「ダークナイト』銀行シーン。 

参照:THE DARK KNIGHT (2008) - Bank Robbery Scene
http://www.youtube.com/watch?v=v3-ClsRE9Yk&feature=related

荘子 Zhuangzi。
跖曰「何適而無有道邪。夫妄意室中之蔵、聖也。入先、勇也。出後、義也。知可否、知也、分均、仁也。五者不備而能成大盜者、天下未之有也。」(『荘子』胠篋 第十)
→盗跖(とうせき)曰く「泥棒に道があるかって?そりゃ、どこに行くにも道はあるさ。部屋に何が置かれているかを推理できるのが聖。押し入るときに先頭に立てるのが勇。出るときにしんがりをつとめるのが義。うまくいくための作戦を立てるのが知。分け前をきっちり公平にするのが仁だ。この五つの徳がなけりゃ、天下の大泥棒になれるわけはねえよ。」

「仁義なき戦い(1973)』。
ギャングと血みどろの抗争をするジョーカーには、上記の盗跖があげる徳目のうち、「分け前を与える≪仁≫」と「しんがりをつとめる≪義≫」だけがわざと引き抜かれています(笑)。そういう意味でも、日本人に合っていますね。

で、
C.G.ユング
『バットマン・ビギンズ』の場合、ユングの元型のうち、「かかし」と「英雄」、「ペルソナ」の他に明白に使われているのが「影」です。『ビギンズ』はブルース・ウェインが子供の頃に井戸に落ちた時に見た「蝙蝠」の恐怖を克服するという成長の物語を主軸にしていまして、この象徴的なシーンで使われているんがユングの「影」です。

参照:Batman Begins - batcave
http://www.youtube.com/watch?v=D6qwcjxDosc

・・・『ゲド戦記』と同じ。
この「影」は、ユングが『荘子』から持ってきただろうというところです。

荘子 Zhuangzi。
「甚矣子之難悟也。人有畏影惡跡而去之走者、舉足愈數而跡愈多、走愈疾而影不離身、自以為尚遲、疾走不休、絶力而死。不知處陰以休影、處靜以息跡、愚亦甚矣。(『荘子』 漁父 第三十一)
→ある人が自分の影をこわがり、自分のあしあとのつくのをいやがった。影をすててしまいたい、足あとをすてたい、そこからにげたいと思って、一生懸命ににげた。足をあげて走るにしたがって足あとができてゆく。いくら走っても影は身体から離れない。そこで思うのには、まだこれでは走り方がおそいのだろうと。そこでますます急いで走った。休まずに走った。とうとう力尽きて死んでしまった。この人は馬鹿な人だ。日陰におって自分の影をなくしたらいいだろう。静かにしておれば足あともできていかないだろう。(現代語訳は湯川秀樹著『本の中の世界』「荘子」より)

参照:湯川秀樹と渾沌。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5118/

蝙蝠を睨む鍾馗。  蝙蝠と鍾馗。  
このバットマンの洞窟のシーンを見たときに、自分は鍾馗(しょうき)を思いました。

参照:Wikipedia 鍾馗
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8D%BE%E9%A6%97

玄宗皇帝の夢枕にあらわれる鬼を討ち祓った、夢の中の豪傑。鬼を食らう魔神。日本でも道教の影響の強い端午の節句に飾られますね。彼の象徴は「蝙蝠」でして、日本ではあまり見られませんが、中国では鍾馗の肖像は蝙蝠とセットで様々な形で描かれています。蝙蝠の「蝠」の字が「福」に通じるという意味もありまして、道教では蝙蝠は幸福の象徴とされています。「吸血鬼(Vampire)」のしもべとして不吉な動物とされやすいコウモリが、好意的に見られる世界的にも珍しい例です。

参照:第六節 黄金バットは中国生まれ?
http://www2.otani.ac.jp/~gikan/4_1situ6_1.html
だから、この方が言っている気持ちが分かります。

バットマンよりも古い、蝙蝠の化身にして正義の味方。あれ、どういう着想で生まれたのか気になります。少なくとも、日本の文化的土壌にないんですよ。

参照:ユングと河合隼雄の道。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5092/
・・・カラスなら分かるんですけどね。

今日はこの辺で。


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